今住むマンションに引っ越して早5年が経った。リフォームして間もないうちに入居したので、ひと通り新しい状態だったが、消耗品がポツポツ寿命を迎える時期になったようだ。
洗面所と風呂場の排水口のパッキンが、立て続けにダメになったので、取説を引っ張り出してパーツを注文することにした。
大企業でも買収・統合当たり前
システムバスはTOTO製、洗面台はINAX製。ちなみに現在は「INAX」という会社はなく、「LIXL」の中の一ブランドとなっている。そのため注文先の電話番号が変わっているなどして少し躓いたが、サービスが引き継がれているなら、特に文句はない。
予想通りイライラさせられる
最初に書いておくが、注文したい品物は、どちらもゴムのパッキンたった1本だけだ。それほど大掛かりな話ではないはずだが、両方の会社ともに、苦言を呈してみたくなる事態になった。直接対応していただいた「人間」の問題では決して無く、システムがおかしい。また、それを放置し続ける体制の質がどこかヘンだ。
電話すると、お決まりの自動音声による案内が始まった。
「〇〇の方は1を、××の方は2を…」というアレだ。目的の番号を押すと、
「大変混み合っておりますので、そのままお待ちいただくか、時間を置いてお掛け直し…」
と、予想通りの放置プレーが開始された。
オルゴールの音が延々と続き、他の事をしようにも、集中力が削がれる。
「マニュアル通り」という正義
これだけで、あっという間に小一時間経過。やっと出てきた、生身の人間の声に安堵。こちらにしてみれば、もうそれだけで充分「救世主」である。
救世主に、カタログの品番を伝えて、パッキンだけの単品で発注できるかどうかを尋ねてみる。
実は、取説には1ユニットのパーツとしての値段が記載されているだけで、ゴム一本の破損のためにマルマル交換するのは、どうも気が引けたのだ。
救世主の答えは、「調べてみるので、電話を切ってお待ち下さい」というもの。仕方ない。
仕方ないが、そんな事くらい一瞬で分かるはずだ。すぐに返事が来るだろう。なにしろ「救世主」だ。
そこからまた小一時間、無情にただ時計の針は進んだ。全然「救世主」じゃなかった。
今度は別の女性からの電話が鳴った。パッキンのみの注文も出来る、と言う。
「やっと終わった…」という思いが、頭をよぎる。
しかし、「商品に間違いがないかどうか、仕様書を送るので確認して欲しい」と仰るではないか。
「あとは、こちらの住所を伝えれば終わりだ」と思ってしまった後には、「面倒くせぇ感」が一層増幅されてのし掛かってきた。
「さっき品番を言いましたがダメですか?」と食い下がるも、「一応確認させていただきます」の一辺倒。
すんなりとは行かないのが世の常
最初に電話してから、ずっとイライラし通しだ。相手の言いなりになった方が、早くこの状況から抜け出せる確率は高いだろう。大人の選択をすることにする。
指定されたアドレスに空メールを送ることにした。そこにファイルを乗せて返信してくれると言う。
一字一句間違わないように、慎重にアドレスを打ち込む。こういうのは、割合得意な方だと自覚している。
ところが、送信ボタンを押すと、「アドレスが有効でない」というメッセージが出て、未送信となってしまった。
さらに慎重に、再度打ち直す。しかし、結果は同じ。
一番最初の電話番号に、再びかける羽目になった。又あの音声ガイダンスに逆戻りだ。優しいオルゴールの音は、僕の気分を逆撫でするノイズでしかない。
やはり30分くらいは待たされた。
電話の相手にこれまでの経緯を伝えると、「担当から折り返しお電話します」とのこと。
もう、素直には聞けない。どうせ待たされるんでしょ?でも黙って待つしか道はない。
午前中の受付開始時間を見計らって、最初の電話をしたが、もうゆうにお昼を回っている。
目前の未来とは程遠いアナログ感
先ほどの女性から電話が掛かった。もうこの人しかいない。窮状を伝えて、泣きついてでも何とかしないと、ゴム一本で1日が終わってしまう。
しかし、やりとりしたメールアドレスに間違いはなく、こちらの入力ミスの可能性しか残されていないようだった。
「分かりました。何とかします。」凄じく心細いくせに、最後は「任しとけ!」的振る舞いに出てしまう、男の性が恨めしい。
「スペース」には気を付けよう
結論から言うと、やはり僕の入力ミスだった。
「answer」と打つ時に、最初の「a」を打つだけで候補がいくつも表示されるが、そこから選んだ「answer」には、実は「a」の前に「スペース」が挟まっていたのだ。
「answer」のつもりが、「□answer」。
カンのいい方なら「ピン!」とくるのだろうが、僕は何十分も悩み抜いた。
誰のための仕組みだろうか?
企業側に立てば、人件費の削減等、メリットは大きいのだろう。しかし、ユーザー側のベネフィットが何一つ見えない。
自動音声による対応なんて、もう何十年も前からやっていることで、特に目新しくも何ともないが、その中身が刷新されていないように感じることが、余計にイライラ感を助長しているのではないか。
「なんかオカシいよ」の裏にある大チャンス
今回の僕のように、何度もやりとりが繰り返されている人は、通常ではない何らかの問題を抱えた人である可能性が高いので、優先しようとか、持ち込まれた案件の複雑さに応じて振り分けようとか、ちょっと機転の効いたスタッフなら自然に出来そうなことを、それこそAIとかに組み込んでいくことが、未来を切り開いていく上で大切なことだと感じる。
残念ながら、AI開発の先頭に日本が立っているというわけではないようだ。しかし、そこに、人に対する「きめ細やかさ」や「おもてなし精神」を付け加えようという発想が出来るのは、やはり日本人だけではないだろうか。そこの優位性を失ってしまっては、未来はないし、貴重な財産であるという認識を新たにする必要がある。
森下昌彦(えむもりさん)
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